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── オーケー。じゃあ話を『とこしえ』にまで遡ってみようか。あの作品には5年くらいかけているんだっけ?
SH : 5年間やり続けていたというわけではなくて。溜まっていったもの、ですね。まあでも、そうですね。まとめようと思ってから出すまでに5年くらいかかってる。
── 魚くんはどんなときに曲をつくるの? 日常的につくってるのかな。
SH : 仕事が入ってなくて、優先する作業がない時にはつくるようにしてます。
── まっさらな状態から「さあつくろう」って?
SH : いや、必ずしもそうではなくて。短いスケッチや覚え書きからとか、あと合間に本を読んだりするじゃないですか。そういうときなんかに溜まっていく「印象」みたいなものをそういう時間を使って出していくという作業です。

── 音楽をしていないときに、たとえば本を読んだりしてるときに溜まっていくものがあると……。それはどんなもの?
SH : どんなって……。ぼわぁんとした……あるじゃないですか、そういうのって言葉にならないから音にしていくわけで。
── うん。どんな本を?
SH : よしもとばなな、とか。
── とか……?
SH : まあ、よしもとばなな、ですかね。
── よしもとさんの物語から音楽を発想していく、ってこと?
SH : 直接的にではないですけど……読んでる内容それ自体よりも読んでるときに自分が思うこととか思い出したこととか、それを覚えておいて音をまとめるときにもう一度読むんです。あのとき(読んだとき)と同じ感覚が表現されているかどうかって。

── 音をまとめるときに読む……。よく判らないな。よしもとさんのものは最新刊を?
SH : 昔のものとかも。繰り返して読むんです。あとはプーさんとか。
── プーさん……。
SH : くまのプーさん好きなんです。一番最後の話とか読んだことあります?
── いや、一話も読んだことない。
SH : とくに最終話は何回も読むんですが、あのプーさんの話全体に流れてる時間とか、感じとか、何とも説明できないんですけどね。
── 魚くんはプーさんを読んで自分自身を整頓してる、ということなのかな。
SH : そういうものを読んで、とか、好きな音楽を聴いた後とか映画を見てでもいいですが、残る感覚ってあるじゃないですか。音をまとめるときにもう一度読むっていうのは、自分のつくったものでそのときと同じ気持ちになれてるかなということです。

── ああ! 少し判った。そういうものが与えてくれる印象と、出来上がった自分のものとの深度の差を測ってるってことだね。魚くんの中にある感覚と深度がどれくらい一致するかという確認作業なんだ。モチーフは何であれ、ね。
SH : でもやっぱり作業中に読むっていうのはよしもとばななですね。しかも最近のことですよ、それをするようになったのは。
── ふだんのそういった時間に魚くんが感覚したことを保存する唯一の方法が音楽に置き換えることだった、ということだね。
SH : うん。けっきょくそういう感覚って説明もできないし言葉になんてできない。最初の「手紙」の曲についての話に戻るけど、伝えたい事は手紙に書けるけど書きたいと思ったその思いそのものは書き込めないですよね? でも書いてるうちに書いてることと思いがひとつになるような時間がある。まるでぽっと火が灯ったような。小さな小さな灯りですけど。
── ああ!
SH : そういうのって、説明できませんよね?
── できないよそんなの。
SH : それを訊いたじゃないですか(笑)。

── 時間がかかったけど最後に聞けた(笑)。「ぽっと火が灯る」瞬間……。あの感覚を、魚くんは音で描こうとしてる。
SH : ありませんか? そういうときって……。
── あるある。今までそんなの言葉にできなかった。魚くんが言葉にしてくれたよ(笑)。

   
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