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Q: さてそれではアルバム『眺め』のことを。録音をした「自泉会館」についておしえてください。
K: 自泉会館は大阪符岸和田市にあります。岸和田市はだんじり祭りで有名ですが、大阪の中心部からは少し遠い所です。当時の関西の建築界の草分け的存在であった渡辺節さんの設計で、国の登録文化財に指定されています。古くて趣のあるとても素敵な建物です。昔はサロンなどに使用されていたようですが現在はホールや展示場として使われています。(http://www2.sensyu.ne.jp/fontaine/

Q: ピアノはここの持ち物ですか?
K: そうです。YAMAHAのフルコンサートグランド(コンサートホール用の長いピアノ)です。

Q: どうしてこの場所を選んだのでしょう?
K: 吹き抜けの響き、でした。はじめて訪れたとき、ホールの静寂が建築そのものの息や気配みたいに思えました。そして、響きを確かめるためにピアノの蓋を開けてもらって鍵を2、3音だけ鳴らしてみたのですが、打鍵すると音が何かに包まれているみたいに柔らかくゆっくり天井に昇って行くのを聴いて、それは一瞬でしたが、天国の心地のような、なんとも味わい深い至福を感じました。
スタジオ録音も考えたのですが、柔らかくふわっとした響きのイメージと、今回はバイオリンもたくさん入るので、やはりスタジオ録音では響きが物足りないと思い、借りられるホールを探していました。

Q: レコーディングの様子を少し聞かせてください。苦労した点などもありましたか?
K: レコーディングは出来る限り一発録りの方向で考えていました。最後の曲以外は全て自泉会館で録音しました。エンジニアの林(皇志)さんに機材を全部持ち込んでもらって、オンマイクの楽器の音と、吹き抜けの2階部分に当たるロフトのようなスペースで空間の響きを集音して頂きました。少し苦労したことは、ドラムの響きと自分のコンディション調整です。限られた時間の中で効率良く進める計画や、朝早くから夜遅くまで集中しながらみんなの様子も気にしたり、演奏以外の事も自分でやらないといけなかったので大変だったかもしれません。普段はのんびりが好きなので。

Q: 完成した『眺め』を、今どのように感じていますか?
K: ただぼんやり眺めています。 それと、この作品は外間さん含む奇跡的なご縁で巡り会えたいろんな方々に背中を押してもらって仕上がったアルバムなのだと実感しています。

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 Mujika Easelの音楽は、ディスクを再生機に挿し入れさえすれば聴こえてくるという種類のものではなく、こちらから聴きに行く、もしくは耳を澄ますという行為と共に在るように私は思う。もちろんだからと言って作法を強いるようなことはない。彼女が愛する植物を思えばそれはごく自然なことで、意識しなければ踏みつぶしてしまうだろうし、地面に膝を折り、葉や芽などをつぶさに観察すればそこから宇宙までもが視えてくるというのと似ている。私たちは既に耳を塞いでいてもさまざまな音(や音楽)から逃れられない世界で暮らしている。そのことは身体的にも精神的にも多くの犠牲を伴うわけだがそれでも私たちは、人の奏でる、体温を伴った音楽を聴きに行くことを求めてやまない。Mujika Easel、つまり辰巳加奈の音楽にはそうした、原始や野性といったものさえも超えた遥かに遠い記憶の明滅を届けてくれるような作用がある、と私は思う。おそらくそれは、あなたの記憶にも在る、ちいさな小さな空気の震えだ。

Interview&text: 外間隆史
photography: 南雲彩子

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Mujika Easel『眺め』DAIR-003 dearAir 2015/12/01発売
Online Shop ⇒http://www.dear-air.com/shop.html

<リリース記念ワンマンライブ>
東京◎2016/03/20 (sun.) 本郷 求道会館
大阪◎2016/04/02 (sat.) 岸和田 自泉会館
詳細⇒http://www.mujika.net/live.html ─────────────────────────────

   
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