<< 2014/02/26 0:21 〈宇〉>>

とってもごぶさたしました。お元気でしたか。みなさんの絵や音や言葉にふれるたびになにか伝えたいと思うのに言えないまま、時間がたってしまいました。

 先週の日曜日、友達と洋服を買いにいきました。そんなのは中学生のとき以来かもしれません。といってもその頃の私は今よりもっと自意識がからまっていて、人前で洋服を選ぶことなどとてもできず、黙ってついていくだけでした。今もちっとも変われていませんが、いっそ苦手なことは人にまかせてしまおうと思いつき、見立ててくれるようお願いしたのです。
 吊り下げられた洋服に次々とふれていく彼女をただ眺め、渡されたものを受けとっては試着室に入ります。カーテンを開けるとすぐに「いい」「さっきの方がよかった」「これは違う」と声がとんできます。そこから「柄は派手だけど形がきれいだから落ち着いて見える」「ちょっとカジュアルすぎる。でもアクセサリーをつければ印象は変えられる」と理由を説明してくれ、さらに店にあるスカーフやイヤリングを「本当はもっとやわらかい生地がいいけれど、色だけ見て」「これがブローチだとするとこういう感じ」とイメージを定めながらあしらってくれます。この瞬発力と想像力。特に、ぞくぞく繰りだされる形容詞に魅せられました。
「とてもモダン」「清潔な感じ」「クラシカルで聡明でもある」「かわいくなくて、きちんとしてる」
 店の人が別の言葉に言いかえてみても適当にうなずいたりはせず、そうじゃなくて、とたった一つの答えを探し続けます。電線にとまる小さな鳥を正確に指さそうとするように。
 彼女は料理の仕事をしています。きっとふだんから、塩ひとつまみの違いでも言葉にして判断しているのでしょう。私は形容詞を使うのが苦手なのですが、それは語彙が足りないのではなく、ものを大づかみにしか見ていないからなんだとわかりました。
 こうして、私にはうまく言い表すことのできない洋服を買いました。ひとりでは選ばなかった服です。これを語る彼女の言葉が一番強く響いてきたから、信じることにしました。

 来週はこの洋服を着て会いにいきます。みなさんはどんな言葉を投げてくれるでしょうか(私に、じゃなくて洋服にお願いしますね!)。
 それでは、お会いできるのを楽しみに。