第一夜 砂浜
瀬長島の砂浜に少しくぼんだところがあって、闇のなかで声をかけあいながら、まきと楽器をかついでそろそろと降りていった。
段ボールをちぎってマッチで火をつけ、廃材に燃え広がらせる。あとは少しずつまきを足しながらビールをあけ、ししゃもを焼いた。
夜の海は、見えない。音だけ聞こえる。昼のように「きれい」とほめなくてもいい。目は月と星に奪われ、耳は海にしずめられる。
布を敷いて仰向けになる。出っぱった石も冷ややかな砂もだんだんなじんでくる。足の裏を火にあてて、目は開けても閉じてもいい。腹に力を入れて笛を吹いてもいい。背骨を地面にあずけて、地球のかたちを確かめる。腕も足も押しつけたら、まるい気もした。
砂浜のずっと向こうに、張りっぱなしのテントと白いバンが見える。ここに初めて来た夏からいるから、もう半年近い。あそこから仕事に行ってるらしいよ、男の人がスーツで出てきたって。そう。履歴書にはなんて書いたんだろう。
風向きが変わるごとに座るところをずらし、砂に時計を描く。つまらなくなってふらふら出ていった人も、どこかでまた戻ってくる。火をたくのは、寒いからじゃない。
まきを全部入れちゃおう、ここで転調してみよう、あれ、いま星が流れたみたい。弦と太鼓が鳴って、火の粉が上着に穴をあけたのも明日も仕事があるのも波と火にゆらめいてわからなくなって、夜は朝になる。じゃあまた明日、いやもう今日だね。一台ずつ島を出る。
部屋のあかりをつけたら、笛のなかに白く砂がたまっていた。