small talk about 『RESOUND』細海魚+外間隆史

外間(以下S):昨年の7月リリースからなんだかもうずいぶん時間が経っちゃって……
細海(以下H):そうですよ。だから特集なんてやめてくださいよ。小さな扱いでいいですから。
:判りましたよ。そっとね。ささやかに。誰も気づかないんじゃないか程度の特集にしますから。
 まずは『Vol.1』の「Alone @ Woods II」は2017年11月11日のレテでのライヴ音源とあるけども、これは細海魚名義での最初のソロ公演?
:最初ではなくて、ソロライヴをやり始めた年の最後のライヴでした。お客さんが来てくれるということがうれしくて胸がいっぱいな感じでした(笑)。
:ナレーション入るところが好きなんです。何と言うか、ちょうどいい声、ちょうどいい英語なんですよね。これは?
:あらきゆうこさん*。普段はドラマーの方です。『TOKOSHIE』にポエトリー・リーディングで参加してもらいました。ライヴの時はカセットテープに入れたあらきさんの声をラジカセで再生してやっています。
:カセットテープでしか出せない、粗野なんだけどやさしい感じがあります。野菜を新聞紙にくるんで渡されるような……。
 同じ『Vol.1』の中の「Ice Cream」は未発表曲でしたか?
:はい。「Friends」と「Ice Cream」がアルバム未収録です。

 『RESOUND』にはライヴ盤に付き物の拍手や聴衆の歓声が入っていない。17曲のうちのいくつかの曲は無観客でのライヴ演奏であることから、敢えてそうしたのかも知れない。
 そう考えるとちょっとした環境音、お客さんがグラスをカウンターに置く音や、機材のノイズ、そういったものらがとても愛おしく感じられ、より身近に思えてくるから不思議だ。奇しくも杉林恭雄が2020年にリリースした『一番星のしずくみたいだ』が、自宅での弾き語りにを小さなレコーダーで録音し、バイクやら家族の生活音やらの環境音をむしろ歓迎しながら取り入れられるかたちの作品だったことと呼応する。疫禍によって損なわれた親密さには雑音も成分のひとつとして重要だったというわけだ。


:さて、『Vol.2』の「Hope」が北海道・斜里にあった『メーメーベーカリー』**における奈良美智さんとのコラボレーション・ライヴ音源です。2018年5月の、ひじょうに貴重な録音ですがこのときのことをおしえてください。
:このライヴの10日ほど前に『ARABAKI ROCK FEST.』(仙台で開かれる音楽フェス)で奈良さんと一緒のステージがあって、ライヴ後バックヤードでメーメーベーカリーの話になったんです。その少し前にお店は閉店してしまって、「あの小さな店でライヴやりたかったな」なんて言ったら奈良さんから「閉店はしたけどまだ店そのものはそのまま残ってるからできるんじゃない? ゴールデンウィークなら一緒に(ライヴ・ドローイング)できるよ」と言われて。
:10日前ですよね……?
:そう(笑)。だからものすごく急いで店主のコワダさんや、シリエトクノート***の中山よしこさんに連絡して協力してもらって。僕は楽器を宅急便で送ったりグッズ作ったり(笑)。かなりの弾丸ツアーでやった思い出があります。
:魚さん、この年は3月にお父様を亡くされてて……
:わりとそのすぐ後だったんですよね。妹の運転する車で2時間かけて母も聴きに来てくれました。お父さんの上着を着て聴いてた。
:あゝ…… :お店にゆかりの人たちも集まってフェアウェル・パーティーっぽい感じでしたね。音を聴くと奈良さんが描いてる音や、ペンを持ち換える音がしています。
:そんなエピソードを聴くとまた聴きたくなってきます。
 ところでジャケット……。2枚並べると完成する仕掛けの、とても良いテイストのイラストですよね。この鈴木タオルさん**** という方は?
:『タビラコ』***** で個展をやっていて知った方で、どんな方なのかよく知らなかったのだけど絵がすてきだったのでタビラコ経由でお願いしたんです。
:『Vol.1』と『Vol.2』に分けた明確な理由みたいなものってあるんですか?
:1枚に入りきらなかったからです。
:笑。でも何らかテーマ的なこととかは……?
:テーマと言うかきっかけはリコンストラクションしてみたかったというのがありました。ライヴ録音っていう、そもそもはひとつにつながってるものを1曲ずつばらばらにして再構築してみたいなと。その再構築をした後にさらに流しっぱなしにできるような感じを意識して並べてみたんです。
:あ……、流しっぱなしにできますよこの作品。と言うか、それが似合う。あゝナルホド! そう考えると、実際に行われたライヴをその場/その時のライヴ感みたいなもので伝えるのではなくて、ひとつひとつの音場をコラージュしていくような方法ですよね。だから心地好いんだ。こう、押し付けがましくないと言うか……。そもそも押しのつよい音楽じゃないですけども……笑。

 カセットテープが聴けるカーステレオ搭載の車を探して手に入れるのは今ではもう難しいことかも知れない。運転しながら目当てのカセットをダッシュボードのポケットから手探りで探してセットしてプレイボタンを押す……。網走辺りからオホーツク海を左に見ながら南下。斜里を抜けて標津町へ。その距離がどれほどか判らない。途中でどこかに車を停めて眠って、朝起きたら漁港へ寄って新鮮な魚介を買い込んだりスーパーへ行って地元のチーズを山ほど買う。そんなルートでドライブしてみたい。僅かばかりの未来を助手席に載せて、細海魚の『RESOUND』を「流しっぱなし」にする。小さな風船が少しでも膨らむように。

* あらきゆうこ…… https://www.office-augusta.com/araki/
** メーメーベーカリー……http://me-me-bakery.com/
*** シリエトクノート……http://siretoknote.main.jp/?page_id=19
**** 鈴木タオル……https://fdstot.com/
***** タビラコ……https://www.instagram.com/tabiraco/