雨糸 焚火社 feat. 新居昭乃

music: Akino Arai
words: Takafumi Sotoma
arrangement: Sakana Hosomi
mixed and mastered by Sakana Hosomi

Akino Arai: vocal
Yasuo Sugibayashi: vocal and gut guitar
Sakana Hosomi: electric guitar and Wurlitzer
Tenorierie: background vocals
Hideaki Kuroda: kantele

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雨糸  作曲:新居昭乃/作詞:外間隆史

雨の 雨の音   翌る日のこと
樋を 樋を伝って 歌うように伝えて

窓に 窓に映る  約束のこと
空に 空に浮かぶ 雲に映して伝えて

ああ幾千の夜 混じり合う
編む糸の色彩
赤い眼の夜 眠たげな
眼に浮かぶ庭園

雨の 雨の音   翌る日のこと



雨の 雨の音   翌る日のこと
樋を 樋を伝って 歌うように伝えて

ああ幾千の夜 混じり合う
編む糸の色彩
赤い眼の夜 眠たげな
眼に浮かぶ庭園

雨の 雨の音   翌る日のこと
樋を 樋を伝って 歌うように伝えて






楽曲「雨糸」についてご挨拶。
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「これ、焚火社2周年のお祝いにつくってみました」
ケーキを口にはこぶ僕の手をとめたその声は新居昭乃さんだ。
ほほえむ彼女のてのひらには、小さな小さな白い匣が乗っかっていた。
ミュージカル映画ならここで僕らのテーブルが回り始め、数人のウエイトレスや周囲の客らは突じょ肩をシェイクしながら歌い出し、呆気にとられる僕らの手を取り踊りの輪へ導き入れるのだろう。
ひとたびキャメラが回り出せばダンスなどとは程遠く静かに暮らしている僕でも踊り出す。
実際こころは躍り、いま目の前で起こっていることをきちんと理解するために肩ではないがアタマをシェイクさせていた。

帰宅後その白い匣をMacBookに差し込み、昭乃さんからの<手紙>を再生……

スウェーデン語のような音声で歌われるそれは昭乃さんの声であり、細海魚のちょっと謎なギターを伴って綴られていた。
こころに、雨が降った。
3月はじめの部屋はまだ冷えきっていて、雨の気配はなかったが確かに僕の内側を慈雨が濡らしたのだ。

詩は、ぽとぽとと零れてきた。
既に日付が変わる頃、できあがった歌詞を昭乃さんへメールで送るとあっと言う間に日本語詞に差し替えられた歌が返ってきた。
時刻は午前3時をまわっていた。

「雨糸」の原型はこんなふうに、春の支度をするのに必要な雨が冬の硬い土に沁み入るようにしてできた。

昭乃さんから贈られたこの曲を、杉林恭雄/テノリエリのおふたりに聴かせた。
ロベール・クートラス展を観に行った帰りの車中である。
ふたりは耳を澄ませ、歌に聴き入り、その<手紙>を持ち帰った。
呑気な音楽家のあつまりではあるがシゴトは極めて速い。
いくつかのやさしい歌声が足され、効果的な楽器が加わった。そこへエリさんの実弟でもある音楽家・黒田英明が「カンテレ」という見たこともない弦楽器を録音してくれた。曲の後半に出てくる朝露のような発弦の音がそれだ。とても美しい。
これらもあっと言う間だった。
魚くんはそれぞれの思いを汲み、この上なく素朴で味わいのあるミックスに仕上げてくれた。

焚火社の音楽部が揃ったのは2年ぶりのこと。こんな機会もまた、昭乃さんからのプレゼントの中身なのだな……と思う。
こうして出来上がった「雨糸」は、焚火社のコマーシャルソングとしてたいせつに飾っておこう。
気に入ってくださった方は何度でもここへ立ち寄って、雨でも消えることのないちょっととくべつな焚火にあたりながら愉しんでください。
よそへは出ない、とくべつな音源ですから。

text: 外間隆史
photo: 安部英知